おもちゃ屋で生まれた故人さま
今回の湯灌のエピソードは某有名な玩具街で生まれ、老舗のお店の娘として大正10年に生まれた故人さまのお話。このお葬儀に関してはこの方の一人娘さんが喪主となります。
玩具屋さんでのびのびと育った故人さま、ゆくゆくはお見合いをし、お婿さんを迎えてそのお店を継ぐ予定であったといいます。
しかし、戦時中にそのお店は焼けてしまい幸か不幸かわからぬまま、敷かれていたレールとは違う人生を歩むことになったのだ。
というのも、故人さまにとって大切な人との出会いが戦後まもなく訪れたからである。
母の秘密
90歳の母が亡くなる少し前のある日、母の妹から母の古い過去の話を明かされた。
長女さんは初めて知った事実に驚いたそうだ。
内容はこうだった。実の父と母は戦後恋をしてまもなく駆け落ちをしたのだと。
当時年下のお婿さんをもらうなど、難しかったのだろうか、二人は相当な苦労の末結婚に至ったという経緯を、つい最近まで長女さんにも伝えられていなかったのだ。
昔の人は口が固い。
「父は、飲み癖が悪かったから、母は苦労したんです。自業自得で49歳でこの世を去った父以来、再婚はしなかったの。
旦那が年下だったものだから、同じ年くらいの男性は全員おじいさんに見えるから嫌って言っていたんですよ、でもきっと父のことが好きだったのね。お母さん幸せだったのかしら」
娘さんはちょっと呆れ気味に嬉しそうな顔で話してくれます。
憧れの母と、あふれる感謝
真っ白な手足、ご生前のときから美しい方であることが伝わってくる綺麗な故人さま。
その手は指先まですらっと長く、美しい。
「娘の私はどっからどうみても働く手で、肌年齢も母の方がよっぽど若いんですよ。何にも特別な手入れをしてなかったのに」
次に娘さんは、半分恨めしそうに湯灌中のお母さんの身体を見つめながら言いました。
「だけどね、私が働いて子供たちを育てることができたのは母のおかげなんです。母が孫を見ていてくれたから私は働いて来られたの」
「そうだったんですね。この手でお孫様を育てて来られたんですね。ありがたいですね」
話を聞いていると私には長女さんが、母のようになりたいという憧れをずっと胸に持っていたのではないかと感じられた。
ラストメイクはCHANEL・春の新色
百貨店高島屋でのショッピングが好きだった故人さまは、洋服や化粧品を買うのが特に好きであった。今年のCHANEL新色のチークを嬉しそうに購入したと言ってたそうだ。
今回は、この持参していただいたCHANELのチークと、CHANELのファンデーション、ローズレッドの口紅を使用させていただきました。
死装束には紫がかった赤褐色、小豆色ともいう上品な着物に袖を通してお休みになられました。
とても若くなられ、本当にお綺麗な方でした。
「故人さまも若返って、若かりしご主人さまと再会出来るといいですね」
「はい、きっとこれなら若い父も気付いてくれると思います」
そうおっしゃった長女さんは、白く美しい母の手に触れられました。
仕事を終えて感じたこと
この施行を終えて、特にこれまで大きなご病気などをしたことのなかった故人さまでしたが、死因はインフルエンザにかかったことによって引き起こされた肺炎でした。
たとえ小さな不調でも、お年寄りの方にとっては早め早めに気にかけてあげなければいけないんだなと、再認識するきっかけにもなりました。
だけどなにより、昔の方は本当に情熱的で「言葉」や「行動」に重みを感じます。
一見すると普通のおばあちゃまでも、愛を貫くべく駆け落ちするほどの若かりし頃があり、きっとこういう物語は人の数ほどあるのだ。
いやぁ~引きこもってばかりじゃいけないな、葬の助も。
などと思いふける夜である……笑
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