湯灌納棺・エピソード005 80代男性/副葬品に思い出のうどん

 

 

喪主不在のなか故人の身支度や死化粧を行う清浄式は進行した。

 

大きな窓のある家族控え室は二月の寒さには暖かすぎる陽光が射し込んでいる。

 

今回は亡くなられた方にとっては甥っ子となる方と、実の妹さんのお話。

 

 

甥っ子と叔父

数ヶ月前のこと、最近えらく痩せた叔父に甥っ子さんは危機感を感じた。

 

「おっちゃん、大丈夫か?」

 

身内がやっと気がついたときにはもうすでに遅かった。叔父は困ったような顔で

 

「実は……半年前から調子が悪くてな」

 

「なんでもっと早く言わんね!すぐ病院行くよ!」

 

甥っ子さんが引っ張って病院に連れて行くも、叔父は嫌な予感を的中させてしまい末期の癌だということがわかった。

 

はじめは「死ぬなんてなんてこたぁない」と強がっていたそうだったが、死の淵に近づくに連れ「死にたくない、死ぬのは嫌だ、生きたい」と、甥っ子の前でおんおんと泣いたという。

 

 

思い出のうどん

 

叔父の顔剃りが終わるのを見届けながら、彼らは昔話を聞かせてくださいました。

 

昔甥っ子さんが小学生の頃は、白黒テレビも珍しい時代。

 

当時、叔父はよく甥っ子さんを甘やかしてくれて、テレビをずっと見せてくれた。自分の家のテレビは妹が陣取って全然見れなかったので叔父の家には夕方まで入り浸っていた。

 

大人になっても隣家に住み

 

「おーい、うどん食うか」

 

という誘いがしょっちゅうあったそうだ。

 

おじさんが出汁から自分で作って食べるうどんは格別に美味しかったそうだ。

 

うどんは常にいくつも買い置きしており、本当にしょっちゅう食べさせてもらったのだと。

 

だから、故人の手元にはうどんの袋入り生麺が添えられた。

 

きっと一番に思い出した思い出のうどんなのだろう。

 

 

叔父に若き父の面影を見る

 

甥っ子さんは故人を見て、やはり自分の親父に似てるなぁといった。

 

故人の兄弟である甥っ子さんのお父さんは、32歳の時にガンで亡くなったそうだ。故人は随分と歳を重ねたが、年老いてもどこか兄の面影があるのだろう。

 

納棺を終えたお棺を式場へお連れし、祭壇に飾られた遺影写真を拝見すると、白黒の写真で30代ごろに山口県へ家族と共に行ったときのものだった。

 

なるほど、お兄さんはこんな顔をしていたのかな。

 

葬の助の目に焼き付いたその顔はたくましくて優しそうな表情の若き故人だった。

 

 


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