50年連れ添った主人は同級生
3つ年上のお兄さんは息を引き取ったあと「とうとういったか」と呟き静かに涙を流した。
お兄さんの185㎝と身長の高い体型は、昔の人にしたら高すぎる故人とよく似ている。
このたびの葬儀に際し、喪主を務めるのは故人にとって50年連れ添った同級生の妻である。そんな奥さんとはよく少量の晩酌を嗜んだそうだ。
戦後大変なご苦労があったが、有名な通信会社で定年まで勤め上げたご主人の最期は肺がんによるご逝去でした。
病名の告知を受けてから、亡くなるまでは10ヶ月しかなかったようです。しかし、奥さんはその間長かったような気がするともおっしゃられた。
主人の赤ちゃん返り
痴呆が進んだからか、なぜかご主人の行動に赤ちゃん返りが多く見られたようで、喪主である奥さんがはにかみながら「主人のいたずら」を話し始めてくれた。
というのも、夫婦揃いダイニングテーブルに座って食卓を囲っているときのこと。
ご主人が牛乳やパンを食べたと思ったとたん、急にするするする~っと、椅子から滑り落ちてしまうのだそうだ。
それもしょっちゅうするものだから、椅子が変なふうに傾いてしまったとか。
「もう、また遊んでる!」
奥さんが机の下を覗き込むと、いつも無邪気に笑うご主人が奥さんを見つめていたそうです。
そして、両手を差し出して「立たせて」と、ひと回りもふた回りも小さな奥さんにおねだりしたんだそうだ。
「ほんっとうに主人には困らされたのよ。私がこの人を抱きかかえるなんてできるわけないのに」と、愚痴を言っておられましたが、そのときの笑顔はとても優しいものでしたし、他人である葬の助にはそれがほほえましい風景に思えて仕方がありませんでした。
トイレからのいたずら
その他にも、何やらコロコロの汚物が出たってので、トイレの中から出てきたソレを3つほど掴んで投げてきたこともあったよう。奥さんは振り返って危うく踏みそうになったので驚いていると、やっぱり無邪気なご主人はニタァ~ッと笑っていたそうです。
印象的な言葉
この仕事では、奥さんがおっしゃった印象的な言葉があります。
「起きて返事をしそうだわ、ただ寝ているだけみたいで信じられない。私が看病していたときの顔そのままなの」
「起きて返事をしそう」や、「寝ているだけみたい」などは、この仕事に携わっていると、よく行き交う言葉ではあります。
ですが今回はなぜかその言葉に、葬の助は愛情を強く感じました。
「起きて返事をしそう」「寝ているだけみたい」と、奥さんはなんどもなんども、言っていました。
色々と困らされた。けれどもあれもこれも全て良い思い出だったと、そのときの奥さんのご表情から伺うことが出来ました。
困らせられていたときはわからなかった。だけど、困らせてきた当人が本当に逝ってしまって、奥さんの胸はポッカリと穴が空いたようになってしまったことでしょう。
しかし、納棺後なんども頷いて少しだけ涙したあと、彼女の目にはこれからの人生にも前向きに、強く生きていくんだというような明るく強い力すら感じたのです。
立派な喪主さまでした。
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