湯灌納棺・エピソード011 80代女性/祖母思いの孫の優しさしみる大みそか

 

 

世間は年越しムードの中で

今年もまた年末を迎える。凍えるような寒い12月の朝だ。

 

世間はクリスマスを終えると、本のページをめくるように一晩で大みそかに向けた装いへと変わる。どこもかしこも、せわしなく忙しい年末である。

 

そして、こうしてる今も時期に関係なく人が亡くなっていく。今日は12月30日だ。

 

とある葬儀式場に朝早くから集まっていただいたのは、6名のご親族だった。

 

その中でも一際目立ってきらきらとした瞳で祖母や私たちを見つめるお孫さんらしき人物がいる。

 

主要人物はおそらくこの人だと私は直感した。時に重要人物は喪主ではないこともある。

 

その読み通り、にこやかに強い眼差しで湯灌を見つめる彼女の口から溢れ出る言葉は、全て祖母を思う優しさに満ち溢れていた。

 

そして、その方は私たち湯灌師へ対する気遣いや配慮さえも出来るすごい女性だった。

 

心に残った今日のシーンを、私はここへ記そうと思う。

 

 

祖母と孫娘の関係

祖母にとって孫の中でも1番歳下に当たるのがその女性だった。

 

祖母にとっては小さい頃からいつも甘えてくる末っ子孫娘が可愛くて仕方がなかった。

 

孫はただただ祖母のことが大好きだった。小学二年生まで同居をしていた、いつしかその関係は親をも越えたという。

 

しかし孫が歳を重ねるごと、祖母の身体も歳を重ね不自由になっていく。

 

すでに別々に暮らしていたふたりだったが、買い物でも病院でも、どこへ行くにも祖母は孫を呼びたがった。

 

その孫が一緒じゃないとお風呂すら入らないと言った。

 

孫は大好きな祖母のため、嫌な顔ひとつせずにそれに応えたと言う。

 

娘を借り出されて困った母親は祖母に対して「もういい加減にしてよ」と、呆れ怒ることが何度もあった。

 

でもふたりの絆は強く、誰にも邪魔出来なかったのだろう。

 

亡くなる2ヶ月前、脳梗塞で祖母は倒れた。

 

それからほとんど意識が朦朧とした日々が続いた。食事は取れずお腹には栄養を送る胃ろうが繋がれた。

 

時々ほかの孫たちがお見舞いに来ても「アカネは(仮名)?」と、朦朧とした意識の中で愛しい孫の名前を呼んだほどだった。

 

とはいえ、もちろん彼女は一日も欠かさずお見舞いに行ったという。

 

だから何の後悔もないような笑顔で亡き祖母を見つめることが出来るのだ。

 

 

湯灌のお手伝い

お風呂は孫とじゃないと入らなかったと聞いたので、私は、是非手伝って下さいとお願いすることにしました。

 

彼女は優しく身体を拭いていく。先ほど私が綺麗ですよと褒めた背中を見て「ほんとだ、おばあちゃん背中綺麗だよ……!」と、みんなへ報告。

 

湯灌を無事終えると「ありがとうございます。貴重な体験をさせていただいて感謝します」と、おっしゃって下さいました。

 

 

お化粧中のはからい

着替えやお化粧へ移る際、彼女は祖母を配慮し別室で待とうと親族たちを説得し始めた。

 

「おばあちゃん、きっとお化粧の途中の姿とか見られたくないと思うからあっちに行っとこうよ」

 

ほら、彼女の意見はいつも祖母の気持ちを考えている。もしくは私たちへの配慮も込められているのだろうか。

 

さて、私はさっそく化粧を施していく。普段パジャマを着ていても常にお化粧をしていたという故人を思い浮かべて。口紅は赤めのピンクだと聞いていたので、私のセンスで色を作っていく。

 

仕上がりをみなさんに見ていただきました。「口紅の色が本当に祖母そのものだわ」と、親族の方が言ってくださりホッとする。

 

納棺までほんの少しでも静かな時間を過ごしてほしくて、私は一旦下がることにしました。

 

すると彼女は祖母の手におでこをぴったりと静かにくっつけた。しばらくの間ずっとそのまま目を閉じている。

 

それは、子供が母親の胸に頬を埋めるような仕草にとてもよく似ていた。

 

 

祖母の願った孫の幸せ

いよいよ棺に故人を納め、相方が納棺飾りを施す段階となった。

 

手が空いた私は彼女から色々な話を聞かせていただくことが出来ました。

 

実は、今年の1月彼女の父も亡くなっていたこと。

 

そして、その後彼女の結婚が決まったこと。

 

祖母に伝えると、喜び結婚式をとても楽しみにしてくれていたこと。

 

しかし、それからすぐ祖母の体調が急に悪化し始めたという。彼女にとってはそのことが1番辛かった。

 

「祖おばあちゃんはきっと安心したんだよ、アカネが結婚出来るのかは祖母が1番心配していたから」

 

周りの家族はそう彼女を励ました。

 

 

年内に喪中を終えたい

「12月31日に告別式を終えることが出来て本当に良かった。他の葬儀屋さんでは年を跨ぐと言われて、やっと年内にお葬式が出来るここを見つけたんです。もし年を跨いだら……うち今年も喪中だったんですが、来年も喪中になってしまうでしょ?来年は私の結婚式が控えているのでなんとか今年に終えたかったんです」

 

祖母は死期を迎える最後まで孫想いだったんだと思うと胸が熱くこみ上げる。

 

「お父さんやおばあちゃんのために、きっとお幸せになってくださいね……!」

 

というのが、今にも涙が溢れそうな私の精一杯のエールでした。

 

「はい!」と彼女は笑顔を見せてくれました。

 

 

私も明日まで棺に入りたい

 

納棺飾りが終わり、柩のそばにご家族たちが集まっていく。

 

さっきまで気丈に振る舞っていた彼女は、柩の中に眠る祖母の姿を見て、合掌した祖母の手ににまた自分の額をくっつけた。

 

「おばあちゃん、私も入りたい。今日は私もここに入って一緒に寝たいよ……」

 

と、呟いた。そして数秒後……

 

「でも、火葬する前にちゃんと出るから一緒に焼かないでね?」とみんなを振り返り家族を笑わせた。

 

たくさん愛を貰い受けた人はこんなに強くなれるんだ……と、決して派手なタイプではない素朴なはずの彼女が、私には特別眩しく輝いて見えた。

 

そんな彼女は来年、24歳の若さで結婚する。左手の薬指に真新しい結婚指輪が光っていた。

 

きっと彼女なら、天国のあばちゃんやお父さんに見守られて、幸せな家庭を築くだろう。

 

 

 


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