目次
皆さんは最期の衣装と聞くと、一番最初にどういったものを思い浮かべるでしょうか?
今回は終い支度のひとつ。
この世で最期に着る一枚の衣服について話を進めていきたいと思います。
終い支度の『衣』について
人は誰でも『衣・食・住』を何より必要とし生きています。
その『衣』とは、それぞれの好みや個性で彩られ、あなたらしさを演出する役目も担っているでしょう。
そんな人として必要不可欠な『衣』ですから、亡くなってから裸でお棺に……
というわけにもいかないので、ほとんどの方がおそらく何かを着せてもらうことになるでしょう。ご自分で用意をしていなければ、遺族の用意したものを着せてもらうことになります。
しかし『何か』を着る。というのも、漠然としすぎていてほとんどの方がどういうものかイメージ出来ないのではないでしょうか?
まずは、この記事をどのような気持ちで読むとオススメか葬の助がお教えしますね。
この記事は、自分が亡くなったあとに着る衣服についてイメージしてお読みいただきたい。
『誰かに着せたい衣装』ではありません。
もちろん、読んでいただいた上で『誰かに着せたい衣装』の参考にしていただくのはとっても嬉しいことです。
ただし、ご自身の『最期』についてネガティブな想いをお持ちになる方は申し訳ありませんがお読みにならないでくださいね。
もう一度お聞きしますが……
最期の衣装と聞いて何をイメージされますか?
やはり、どなたも思い描かれるのは白い着物の白装束でしょうか。
故人に着せる【白装束】とは
●納棺する前に故人へ着せるもの。
→納棺に関する記事はコチラ
●湯灌後又は清拭の後に故人へ着せるもの。
→湯灌に関する記事はコチラ
●又は、納棺の際お柩にお納めするもの。
これは以下のように他にも呼び方がありますが、おおよそ同じものを指しています。
1.白装束(しろしょうぞく)
2.経帷子(きょうかたびら)
4.旅装束(たびしょうぞく)
5.仏衣(ぶつい・ぶつぎ)
厳密に言うと……
1.白装束は白い単体の白衣のこと。(はくい、しらぎぬ、びゃくえ)とも呼ぶ。神社の者、研修者などがつける各種の装束の襦袢(下着)。浴衣風の肌着のようなイメージ。
2.経帷子は亡くなられた者に着せる服を指す。寺関係の葬儀に用いる言葉。名号や題目、経文などを書いているものがある。(「経衣・きょうえ」又は「無常衣・むじょうえ」とも呼ぶ)
4.旅装束は旅に出る時の衣服。旅支度。
5.仏衣は故人にお着せする白い着物のこと。
上記は意味が若干違いますが、装束の内容は同じです。ここでは白装束と表記して進めていきますね。
白装束セット(旅のお支度)の中身一式はこうなっています。
1.頭陀袋(ずだぶくろ)と呼ばれる簡易な布製の袋。
2.手甲と呼ばれるもの。手の甲を護る衣類、武具の一種。
3. 脚絆とよばれるもの。すねを護る為につけて足ごしらえとした布。「はばき」とも呼ぶ。
4.天冠(てんかん)三角のお額当て。
5.六文銭(ろくもんせん)三途の川の渡し賃と言われている。現在は火葬場の都合で紙で印刷されたもの。
6.杖(木製)
7.わら草履
8.数珠
9.白い着物
などが、だいたい一般的にどこの葬儀社でも用意しておられる白装束+旅支度のセットになっています。(葬儀料金に含まれている場合とそうでない場合があります)
西国巡りなどで着て歩くアレです。
イメージできてきましたでしょうか?
今では葬儀社で用意される白装束でも花の刺繍が入っていたり、カラーが入っていたりするようなものまで、様々な種類があります。布地も肌触りの良いものもあればポリエステル製の薄い布製のものまで……生前に決めておけるなら葬の助もこれが良いなと思うものがあったりします。高くても悪いもの、安くても案外良いものが葬儀業界ではあたりまえのように出回っています。金額設定は葬儀社さんによるものなので、正直当たり外れはあります。なぜなら白装束ひとつで葬儀社を選ぶことはないからです。
もしもあなたが『衣』について、こだわりたいのであればやはり事前に調べておく、生前に購入し用意しておくのがおすすめです。
ちなみに、この旅支度一式はその家のしきたりに従って着る必要が無かったり、一部だけ使わなかったり、全て必要と考えられていたり本来は使い分けられています。
こちらはまたいつか記事にいたしますね。
とまあ、白装束というイメージが湧いたところで……
白装束以外に何を着るの?
というギモンに答えていこうと思います。
白装束以外に【着物】を着せる
・肌襦袢
・長襦袢
・着物
・帯
・あれば羽織
・腰紐
・帯上げ
・帯締め
・足袋
※上記は全て揃っていなくともよい。
急な悲しみごとであり、とりまぎれる葬送の場ではむしろ用意周到にしない方が良いとの考えがあります。よって、『着物が一枚だけしかない。紐がない、帯がない、どうしよう?』などという状況でも大丈夫です。
・この悲しい出来事をを予期していなかったということで、しつけ(仮縫いの糸)がついたままの着物もあえてしつけをお取りしないままにすることもあります。
・襟芯などは特に必要なし。帯のお太鼓はお腹で作ると花魁(おいらん)さんみたいになるので作らないことが多い。
・インナーも用意されることはありますが、基本的に和装では肌襦袢がインナー代わりとなりますので、特に用意されなくて大丈夫でしょう。着せる場合は用意してください。
・そのお家に逆さごとを行う伝統があると、襟元の合わせは逆となり、着物の裾の柄が見えなくなるものもあります。
このように日本の伝統衣装である着物を着ることは日本人らしく素敵だなぁと葬の助はいつも思う。
ちなみに、韓国ではチマチョゴリ、中国では漢服(これ、かなり葬の助好みの可愛らしい衣装です)などの民族衣装があり、これらも日本の白装束のように最期に着る用に作られた衣装もあるようです。
白装束以外に【病院などで用意された浴衣(ゆかた)】を着せる
亡くなられる方の約8割が病院でお亡くなりになるといわれている今、息を引き取った直後には浴衣に着替えさせられることがほとんどです。(病院によってはレンタルであったり買い取りであったりします)
その浴衣は新しいものなので、買い取られていて特にこだわりがなければその浴衣をお着せしたまま荼毘に付しても問題はないでしょう。
白装束以外に【洋服】を着せる
今では好きだった服や着慣れた洋服などもお着せすることが増えてきました。
男性であればスーツに、仕事着、生前励んだスポーツウェア、ジーンズのような普段着やパジャマなど。
女性であれば、お出かけ用の特別な一枚(スーツタイプ、スカートタイプ、ドレスやワンピースにストッキングなども)もちろん普段着のようなジーンズスタイルや、パジャマなど。
ただし、残念ながらこれらは当然亡くなられた方にお着せするための専用の服ではありませんので、場合によっては故人さまのお身体に多少なりとも負担をかける可能性があるということを知っておいてほしいのです。
例えば……
たいへんむくでおられるお身体にもストッキングをお履かせするということもあったり。
例えば……
全身の皮膚がデリケートになっていれば、吸水パットを巻いて保護をしますが、その状態でも細かった時の洋服を着せたい。というようなご要望なども実際にあるんです。最悪は衣服をお切りし着せる方法もありますが、これは誰しもがなるべくしたくない方法です。
しかしながらそのお着せしたい気持ちがわかるからこそ、納棺師はみなその気持ちに常々必死に応えております。ただ実際は故人さまに負担が多いな……と感じることが多々あるんですね。そんな時は……
「ごめんね、故人さま。頑張って気に入っていた洋服を着ようね」
と、心の中で話しかけます。
こういう無理を防ぐ為にも、洋服を選ぶ際は、下着や靴下に至るまで、出来ればゆったりとしたサイズのものを選ぶことが故人さまへの思いやりではないだろうか。
ご自分で最期の衣装を用意する場合にも、参考にしていただけると思います。
和服の良いところと手作りの白装束
さて、ここまで和服と洋服の場合の話をしてきましたが、やはり和服はよく出来ていると思います。
故人さまのお身体に負担なく着せられるように本当に良く作られています。
そして何より、昔の方は白装束をご自身や親御さんが手作りしていたと聞けば、物にあふれた現代に生きる我々としては驚きではないだろうか?
我々のおばあちゃん世代、大正生まれの方や昭和初期の方などの昔の人はよく手作りの白装束を持っているんですよ。亡くなった時に着る服を若い頃に作っていたのです。
それがどういうことかおわかりになるでしょうか?
昔の日本人には終い支度をする風習があったということです。
おそらくそれほど、人が亡くなること自体が身近なものだったのでしょう。
終い支度とは、昔から行なっていた日本人らしい行いなのかもしれない。
平和と共に『命を看取る』ことも無くなった今、終い支度など考える人がそう爆発的に増えるはずはないのですが、その一方で中にはいざというときの備えとして意識的に終活を行う方も確実に増えてきているのも事実です。
昔とは形を変えながら、現代には現代らしい以下のような終い支度の『衣』があります。
白装束以外に【ラストドレス・エンディングドレス・フューネラルドレス】を着せる
白装束ではないものの、ローブ風で和風なデザインのものもあるようであす。個人的にはすごく好き。
わりときっちりとした装いをされたい方はこういったデザインも良いかも。お帽子までついて上品ですよね。
ゆったり、お身体に優しいデザイン。体系なども気にせずお着せできそう。リボン付き(特に亡くなられた際にはむくみ等で膨満する部分が現れることもあるので安心...)
高級感とうたわれているのがこちら。シャーリングが豪華です。こちらのデザインはドレスらしいドレスの形状をしていますね。小物の足袋や手甲風のものまでかわいすぎるデザイン。
セミオーダーなどで作ってくださるところもあるようです。現代では生前に楽しく語らいながら衣装を決める方もいらっしゃるようです。
このラストドレスは、亡くなった方が着ることを前提として作られており、硬直している方に、ご家族でも心を込めてお着せできるように作られています。
ラストドレス
ラストタキシード
ラスト着物(男性用・女性用)
フード付きショールなどなど…
金額は張りますが、興味津々になりますね。
こういうものを選ぶとき、どんな気持ちになるのだろう。葬の助も一度はこういうアトリエに足を運んで聞いてみたい。
さて、亡くなられた人に着せるものの話、いかがでしたでしょうか?
わからないこと、また追加してほしい項目があれば気軽にお問い合わせからお願いいたします。
最後に……
年代別の死衣装の傾向
70歳〜100歳代
こういったご年配の方では、男女ともに白装束又は若い頃にお作りになられた高価な大島のお着物などをお着せすることもありますが、気に入っていた思い思いの和服を用意されることが多いです。ご自身や、親御さんがお作りになった手作りの白装束なども用意されていることも多々あります。昔ながらの風習なのだと実感する瞬間。洋服は少数派。
50歳〜60歳代
着物を着せることもありますが、男女ともに白装束の方が多い気がします。(若い時に着物を着る風習が減った時代だからだと思われます)洋服ですと男性ならスーツ、普段着、仕事着など。女性の洋服ですと、外出用のお洒落着、普段着など。
30歳〜40歳代
着物を着せることは更に少数派となり、洋服の用意がなければ自然な流れで白装束をお着せします。洋服はお出かけ用よりも今時のファッション、普段着など。
20歳〜30歳まで
成人式に着た袴や振袖があれば着ることが多い。普段着の洋服、用意がなければこちらも自然な流れで白装束をお着せします。
10歳〜20歳まで
制服、または普段着。稀に白装束をお着せします。
0歳〜10歳まで
普段着をお着せします。
このように年代別で見るとだいたいの傾向がおわかりになるでしょうか。
最期の衣装ひとつ取り上げても様々であることがわかっていただけたでしょう。
終い支度を考えるときの参考になれば幸いです。
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