エピソード集

湯灌納棺・エピソード009 90代女性/葬儀は無宗教でと遺言を残した母

 

 

この日のご遺体は、体つきのしっかりとしたおばあちゃんだった。年齢の割に硬直がきつく現れていた。
(死後硬直というものは筋硬直によるものなので、ご年配になるほどこの硬直は弱く現れることが多く、逆に畑仕事やスポーツなどされていた方はご高齢者でも強く硬直が現れることがある)

 

この度のお立会いは長男次男と長女の3名だった。

 

 

最初のセッション

喪主をつとめるのは寡黙な長男の方です。一方少し不安げな長女さんは納棺に訪れた我々に対しても最初は警戒なさっているようでした。

 

さて、湯灌が始まり少しづつ会話を挟みながら故人さまをどのようにしてお棺へと納棺するかを頭の中で考えていきます。
最初のセッションでピリピリとした雰囲気であっても、この空気を徐々に取り除き穏やかなものに切り替えてしまうのも納棺師として、ひとつの腕の見せ所。

 

 

入れ歯を入れたい、外したい

よくあることですが、今回は入れ歯が飛び出して見えることを長女さんがえらく気にしておられました。
一方長男さんは入れ歯は入れたままが良いだろうという二つの意見に分かれました。
簡単に言うと入れ歯を入れたまま派と、入れ歯を取ってでも口を閉じてあげたい派に分かれたのです。

 

こういう時は入れ歯を入れたまま納棺する際のデメリットのお話をしつつ、一番不安げな長女さんの希望を聞き、入れ歯を外せるか試します。しかし今回はがっしりと顎も硬直している故人であること、入れ歯を外そうとする行為ひとつもご遺族から見れば痛そうにも見えてしまう。実際入れ歯を外すためには顎の硬直を和らげなければいけません……それには少し力がいります。そこで、喪主さんがもう可哀想やから無理に取らんとこう、十分丁寧にしてくれた。と何度も仰ってくださいました。長女さんは母のためにご自分の希望のお気持ちをぐっと飲み込んでくださり、入れ歯はお取りしないことになりました。

 

▼亡くなった人の口に入れ歯を入れるのは変?納棺師の葬の助が真実を教えます

 

 

遺言

 

遺言を残した故人様。

 

●子供たち3人だけで葬儀をしてほしいということ。

 

●兄妹には連絡しない。

 

●無宗教で行う。近所のお寺さんや周りの目を気にせず無宗教で。

 

●自分の兄妹には後日報告すること。
これは、遠方でご高齢の兄妹の体を気遣う故人の優しさだ。

 

彼女はこれまでも人によく気を遣った方だった。

 

長女さんは東京に住んでいるが1ヶ月に2度帰ってきて様子を見にきていたそうだ。

 

家に辿りつくまでは、乗り物を6回も乗り換えないといけない。
しかし、できることはやれたからもう満足なの!と笑顔で仰られた。

 

「お疲れ様、行ってらっしゃい!」

 

彼女はお棺へとお納めの際、その言葉をお母さまに送られました。

 

亡くなる1週間前には状態が悪くなったということで実家に帰ってきており、母の死の間際、病院に向かうタクシーが何度も信号に引っかかりながらも臨終の4分前には到着した。

 

看取りが出来たのは本当に良かった。

 

しかも、タイミングが良かったのはそれだけではなかった。母が亡くなったその日、長女さんの娘さん(故人のお孫さん)が仕事の撮影でたまたま京都に呼ばれてきていたのだ。そのお孫さんも急遽駆けつけて、臨終の前には間に合うことができ、体をさすることもできたそうだ。

 

故人は色々タイミングが本当によい方だった。親の看取りが出来ることって、きっとすごいことだ。当たり前に出来るようなことじゃない。それは本当に本当に幸せなことだ。

 

この親子らを見て、素晴らしい親孝行、子孝行だと思った。

 

 

無宗教葬

 

無宗教での送り方は故人の意思によるものだった。
数珠や六文銭も旅支度もいらない。故人は生前そう強く希望していました。

 

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死因

死因は大腸ガン末期によるものだった。

 

亡くなる3ヶ月前、本人がお腹に違和感をおぼえて病院へ。大腸ガン末期だと告知される。

 

おそらく10年前ごろから発症していたのではと医者に言われたが、1年前まで70㎏ほどあった故人さまは、お腹周りの脂肪のせいで、その違和感を感じなかったそうだ。

 

痩せるきっかけになったのは、病院の先生から痩せたほうが体が楽になるということで、食事制限を兼ねた減量メニューがはじまった。

 

そして、気がつくと15㎏ほど痩せたのだそうだ。

 

体のためにとはじめた食事制限ダイエットであったが、それをきっかけに末期ガンを発見することになった。

 

しかしご高齢の故人さまです。

 

特に治療等は行わず、大きな苦しみの中で息をひきとった訳ではなかったようです。
しかし、安らかに亡くなられたのは病気発見から3ヶ月という早さでした。

 

 

副葬品(納棺品)

 

「何を入れたらよろしいかしら?」上品な長女さんが私に問いかけてくださいました。

 

「もう母が入院してから、私が母の家のものをほとんど全部捨てちゃったの。だから何入れたらいいのかしらね。思いつくものは紫のコートくらいかしら、気に入っていつも着ていたのよ」

 

お話を伺うだけでも、故人さまは実に潔いお方だ。

 

ならば色々と入れるのではなく、そのコートだけを入れて差し上げれば良いのではないでしょうか?と、私は提案してみました。

 

すると「そうね!それが母らしいわ」と、長女さんは嬉しそうに笑った。

 

 

葬儀はココと決めていた

まだ母が病床にいたとき、長女さんが病院の事務員さんと何気ない会話をしていると、お母さまの死後のアドバイスをくれたそうだ。

 

葬儀など、どこでどんな葬儀をするか決めておいたほうがいい。

 

これで必ず誰かが揉めるから!と。

 

それを聞いた長女さんは、今回のこの葬儀会館を選び事前相談に来て、葬儀の方法や流れをある程度決めていたそうだ。

 

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「色々なことがスムーズに行えて本当に良かったわ。

 

何も焦らず、きちんと進められていてほんとにあの事務員さんには感謝してるの」

 

と、実際に事前相談でよい葬儀を進めておられる姿を目にし、私としてもうんうんと頷くばかりです。

 

ちなみに、これはたまたまだそうだが、故人さまの母のときのお葬式も同じ葬儀会館だったことを、40年も前のことなのに次男さんがうっすらと覚えていたそうだ。偶然と縁が繋がったのだろうか。なにより、葬の助としては最初の殺伐とした空気感の中から少しずついろんなお話をしていく中で、緊張の糸がほぐれ、思い出を回想し、ご家族にはご納得いく納棺ができたのかなと感じることができました。毎度毎度、これが一番ホッとする瞬間。

 

決して人生に何度も何度も送るわけではないお葬式。

 

貴重なその一回一回に、それぞれのエピソードがあるのだということを、今回も痛感した葬の助でした。

 

 


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